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吸入剤使用障害

吸入剤使用障害

Inhalant Use Disorder

 

疾患の具体例

16歳、男性。家庭環境が複雑で、家出を繰り返しています。数か月前から、市販の有機溶剤を袋に入れ、ガスを吸引するようになりました。頭がぼんやりとして、何もやる気が起こりません。空腹感もわからなくなり、体がやせてきました。不登校になりましたが、本気で有機溶剤をやめようとは思えません。

 

特 徴

吸入剤使用障害は、接着剤や燃料、塗料、有機溶剤など揮発性の炭化水素の使用をやめられない障害です。具体的な吸入剤としては、シンナーやガソリン、接着剤、ライターのオイルなどが挙げられます。これらが発する有毒ガスを吸い込むと、一時的に酔っ払ったような状態になります。しかし、長期間あるいは大量に使用すると幻覚や妄想、意識障害などの中毒症状が起こります。

この障害は、吸入剤によって身体的、精神的、あるいは社会的に深刻な問題が生じているにもかかわらず、吸入剤の使用を続けます。例えば、学校を欠席したり、仕事や家庭における役割を果たせなかったりするほか、家族や友人との喧嘩を繰り返すようになっても、吸入剤をやめられません。

日本では、1960年代に青少年の「シンナー遊び」が社会問題化しました。その結果、シンナーに含まれるトルエンやキシレン、メタノールなどは「毒物及び劇物取締法」で規制されていますが、接着剤やライターオイルなど簡単に入手できるものもあり、問題は解決していません。

 

有病率

この障害は10代に多い傾向があります。アメリカでは、12〜17歳の約0.4%が過去12か月間に吸入剤使用障害の基準を満たしています。

 

経 過

吸入剤を使用した青年のおよそ1/5が吸入剤使用障害に進展します。そのうちの少数は、吸入関連事故や、吸入中の突然死に至ります。しかし、この障害は成人期早期に寛解する傾向があり、20代になると劇的に有病率が低下します。成人後もこの障害が続く人は、物質使用障害や反社会性パーソナリティ障害、自殺企図歴などほかの障害や問題があることが多いようです。

 

原 因

気質要因:

吸入剤以外の物質使用障害、素行症または反社会性パーソナリティ障害は、吸入剤使用障害のリスク因子です。

環境要因:

吸入ガスは合法的に入手可能なものがあり、身近にそうしたものがある環境は吸入剤使用障害のリスク因子です。また、児童虐待や心的外傷も、吸入剤使用障害になるリスクを高めます。

遺伝要因と生理学的要因:

社会のルールを守れず、自分の行動を抑制できない「行動脱抑制」という遺伝的傾向の高い性質があります。この性質のある青少年は、吸入剤使用障害になるリスクが高いと考えられています。

 

診断基準:DSM-5

A. 炭化水素を基にした吸入性の物質の問題となる使用様式で、臨床的に意味のある障害や苦痛が生じ、以下のうち少なくとも2つが、12か月以内で起こることにより示される。

  1. 吸入性の物質を意図していたよりもしばしば大量に、または長期間にわたって使用する。
  2. 吸入性の物質を減量または制限することに対する、持続的な欲求または努力の不成功がある。
  3. 吸入性の物質を得るために必要な活動、その使用、またはその作用から回復するのに多くの時間が費やされる。
  4. 渇望、つまり吸入性の物質の使用への強い欲求、または衝動
  5. 吸入性の物質の反復的な使用の結果、その使用、またはその作用から回復するのに多くの時間が費やされる。
  6. 吸入性の物質の作用により、持続的、または反復的に社会的、対人的問題が起こり、悪化しているにもかかわらず、その使用を続ける。
  7. 吸入性の物質の使用のために、重要な社会的、職業的、または娯楽的活動を放棄、または縮小している。
  8. 身体的に危険な状況においても吸入性の物質の使用を反復する。
  9. 身体的または精神的問題が、持続的または反復的に起こり、悪化していいるらしいと知っているにもかかわらず、吸入性の物質の使用を続ける。
  10. 耐性、以下のいずれかによって定義されるもの:
    (a)中毒または期待する効果に達するために、著しく増大した量の吸入性の物質が必要
    (b)同じ量の吸入性の物質の持続使用で効果が著しく減弱

 

吸入剤の詳細を特定せよ:

可能ならば、特定の吸入剤の名称を記しておくべきである(例:「溶剤使用障害」)

 

該当すれば特定せよ

寛解早期:吸入剤使用障害の基準を過去に完全に満たした後に、少なくとも3か月以上12か月未満の間、吸入剤使用障害の基準のいずれも満たしたことがない(例外として、基準A4の「渇望、つまり吸入性の物質の使用への強い欲求、または衝動」は満たしてもよい)

 

寛解持続:吸入剤使用障害の基準を過去に完全に満たした後に、12か月以上の間、吸入剤使用障害の基準のいずれも満たしたことがない(例外として、基準A4の「渇望、つまり吸入性の物質の使用への強い欲求、または衝動」は満たしてもよい)

 

該当すれば特定せよ

管理された環境下にある:この追加の特定用語は、吸入性の物質の入手を制限された環境下にある場合に用いられる。

 

現在の重症度を特定せよ

軽度:2〜3項の症状が存在する

中等度:4〜5項の症状が存在する

重度:6項以上の症状が存在する

 

※参考文献

『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)

『カプラン 臨床精神医学テキスト 日本語版第3版』(メディカルサイエンスインターナショナル)

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